思いがあっても実現しないと意味がない 株式会社Kids Public橋本代表に聞く 社会に貢献する組織・個人のあるべき姿とは
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- コラム
先進国で実用化が進む「遠隔医療」。株式会社Kids Publicはスマートフォンから小児科医に相談ができるオンライン医療相談「小児科オンライン」を2016年、産婦人科医、助産師に相談ができる「産婦人科オンライン」を2018年から開始し、子どもや女性の心と体の健康についての相談に対応しています。24時間毎日相談を受け付ける専用フォーム経由の相談や、夕方夜間にLINEや電話から直接相談ができる形式で、全国からの相談を受けています。利用者は全員無料。自治体の住民サービス、企業の福利厚生や付帯サービスとして展開しています。現在、全国112の市区町村で利用可能であり、全国への導入を目指して順次拡大しています。また、40を超える企業への導入実績も持っています。
2016年に開催されたスタートアップバトル「TechCrunch Tokyo」で優勝したKids Publicへ、副賞として贈られたPwC Japanからのコンサルティングサービスに弊社代表の中川が参加。子どもたちにまつわる課題を解決し、より良い社会を構築しようとする橋本直也代表の理念や、プロフェッショナルギルドで中川が実現しようとしている社会の未来像などを大いに語り合いました。
資金面で苦労しても「やらない理由」にはならない
中川貴登(以下、中川):起業された時の橋本先生の思いからお聞かせください。
橋本直也さん(以下、橋本):私が小児科医として病院勤務していたときの救急外来で、虐待を受けた3歳の女の子に出会ったことがきっかけで、Kids Publicを創業しようと思いました。付き添っていたお母さんは明らかに社会的に孤立した様子でした。その方が虐待を告白したのを聞いて、保護者が孤立すると、最終的に子どもの健康に影響が及ぶということを思い知りました。
虐待は発生してしまってから、病院で接点を持つことになるケースがほとんどです。病院で待っているだけでは、この子のような子が来続けてしまう。この子がこうならないように守ることが自分にはできなかった。そのことに、強いやるせなさを感じました。
病院で待っているだけではリーチできない、計り知れない不安や孤独を抱いている保護者との接点を、オンラインなら持てるのではないかと考えたのが最初の思いです。それは今も変わらず、最も大切にして活動しています。
中川:橋本先生に出会った頃の医療業界のベンチャーは、資金面でも苦労が多いのではないかと感じました。事業自体は多くの人のために必要で意味のあることなのですが。
橋本:そうですね。資金面は難しいとよく言われます。労働集約型(人間の労働力に頼っている業務の割合が高い産業)とも言われますが、だからといってやらない理由にはなりません。実現したいことがあるならやるしかない。
日本において医療や健康分野は、あらゆる人に行き届くよう国が中心となって手厚く守っています。それ自体は素晴らしいと思っています。一方で社会保障費はどんどん膨らみ、今後の持続可能性を考えると、制度自体を見直す必要もいつか出てくると思います。
先進国の中には医療の一部を民間が担っているケースもあります。この流れを汲むのかは、日本における今後の検討課題の一つです。現段階でも現行の制度では手が届きにくくなっている領域があります。それらの領域を、私たちのような民間が担いながら、人の健康をしっかり守る道筋を示すことは、これからの日本にとってとても大事なことだと思っています。
もっと気軽にSOSが出せる社会に
中川:Kids Publicの事業を通して意識していることはありますか。
橋本:私たちの事業が社会に実装されることは、それ自体が「子どもたちへ社会の投資を集めよう」というメッセージになると思っています。そんな使命感のもと、なんとか広く社会実装されるよう日々取り組んでいます。私たちの活動によって社会の目が子どもたちに向かうきっかけになればと考えています。
中川:保護者の皆さんの意識も良い方向に変わりそうですね。
橋本:この事業を通じて、保護者の皆さんには気軽にSOSの声をあげてもいいんだ、ということを感じてほしいと思っています。実際に「誰にも言えなかった悩みを打ち明けられた」といったとの声も多く届いており、事業を続けてきて良かったと思っています。
人間の行動はインセンティブの総量で決まる
中川:やりたいことを実現するために橋本先生が取り組まれていることに、私自身とても感銘を受けています。これまでの働き方は会社が優先でしたが、今は個人で実現したいことへ取り組んでいく時代になったのではないかと思います。実現したい思いのある人同士で仲間になり、どんどん新しいことを実行していく。
実際に橋本先生の思いや事業内容に共感し、協力する医師や助産師の方々が順調に集まっていると伺っています。
橋本:起業したばかりの頃に、私の記事を読んで問い合わせをしてくれた人がいて、声を上げることは大事だと思いました。やりたいことを明確に伝えることで、コアメンバーに出会うことができました。今も事業への思いをしっかり伝えることを意識して採用活動を行っています。
また医師や助産師についても、Kids Publicのような子育てや育児支援をやりたかったと言って集まってくださる方がたくさんいます。こうしたメンバーとの縁には感謝しかありません。
皆さんに対して誠実であり続けるためにもこの事業の意味や、人々の健康にどれだけ寄与しているかなどについて、エビデンスを集めてしっかりと社会に伝えていくことに力を入れています。
中川:私が作っているプロフェッショナルギルドも、いろいろな仲間たちが思いを共にして社会課題に取り組んでいる点で、橋本先生の組織に近しいように感じます。プロフェッショナルギルドに在籍するさまざまなスペシャリストが、橋本先生の思いに共感し、PwC Japanのプロボノのように協力して、どんどん広がっていくといいなと思います。
橋本:本当にそうなると素敵ですね。実際プロボノで多くの協力者に出会えてとても感謝しています。私たちの事業のためにお借りした誰かの時間は、その方の人生の一部です。そこに対する責任として、力を貸してくださった方たちの期待に応え続けていかなくてはなりません。
人間の行動はやりがいやお金など、インセンティブの総量によって規定されると考えています。それぞれのインセンティブの割合は個々人で違う場合があります。ご協力いただいている立場としては、なぜ今この人が、ここで私たちに力を貸してくださっているかを見誤らないよう、ずっと考え続け、応えていかなければと思います。
中川:おっしゃる通りだと思います。社会課題に取り組む企業は資金が足りず、モチベーションが続かないことが多いです。プロフェッショナルギルドを通して事業のクエスト(貢献できること)を伝え、企業と個人の橋渡しができれば、相互でWin-Winになるのではないかと考えています。
橋本先生の事業はきちんと事業として成り立っていて、子どもたちやこの国の将来を支えられるというやりがいもありますから、Ballistaとしてもしっかりと支えていきたいです。
橋本:ありがとうございます。極端かもしれませんが、社会の中で、最も優先的にお金が投下される先は、常に子どもたちであってほしいと思っています。プロフェッショナルギルドがそのきっかけになったらうれしいです。
中川:本当にそうですね。子どもたちの将来のためにお金を使わないと、日本がどんどん衰退していくのではないかと危惧しています。子どもたちの健康や教育のために、できることはやっていきたいと思います。
思いを社会実装するためには外部刺激が必要
中川:最後に、プロフェッショナルギルドに対する期待感をお聞かせいただけますか。
橋本:Kids Publicは、これまで世の中になかった事業を生み出そうとしている組織です。そのため同じ思いを持った人たちと共に試行錯誤しながら、方角も気にせず没入しながら歩いてしまっている時もあります。そうなると、ときには主観に囚われて周りが見えなくなってしまうこともあって。
だからこそ、プロボノで中川さんたちから客観的な意見をいただき、私たち自身とても刺激になりました。
思いがあることは大切ですが、実現しないと意味がありません。煮詰まってしまった時に第三者の考え方を取り入れることは、事業成長のためにとても大切だと感じています。そうしたときに、はじめはフリーランスとして事業に参加し、相性が良ければ会社に入っていただくといった関わり方は、事業のドライブ(前に進める力)になると思います。
思いを社会実装するために外からの刺激は必要になります。そうしたサービスがあればいいなと思っていたので、待ち望んでいたサービスがBallistaのプロフェッショナルギルドという形で誕生したというのは素晴らしいことですね。
中川:ありがとうございます。これまでのコンサルタントは参謀タイプが多かったのですが、伴走するだけでなく、今後はプロフェッショナルギルドを通して、1プレイヤーとして事業や社会に貢献できる人を集めていきたいです。それが個人のバリューや価値につながっていく時代を作りたいと思います。
橋本先生の事業に関わらせていただいたことは私の宝物になっています。これからもご協力できるよう、組織をしっかりと運営していきたいと思います。ありがとうございました。