やり抜く覚悟で20年 FRONTEO 守本正宏社長に聞く、プロフェッショナルはAIとどう向き合うか

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2023.05.10
  • コラム


自社開発AIエンジン「KIBIT」を用いた多様なAIソリューションとサービスを提供するデータ解析企業のFRONTEO(フロンテオ)。2003年の創業以来、国際訴訟で必要な証拠となる電子データの保全と調査・分析を行う「eディスカバリ(電子証拠開示)」や、「デジタル・フォレンジック調査」といったリーガルテック事業をメインに展開してきました。さらに現在では、ビジネスインテリジェンス、ライフサイエンスAI、経済安全保障の各領域で、さまざまな企業の課題や社会課題の解決に貢献しています。

創業者で代表取締役社長の守本正宏さんは、防衛大学校、海上自衛官を経て起業家に転身した経歴の持ち主。Ballista 代表中川にとっては先輩にあたります。そんな守本さんに、AI時代のプロフェッショナルのあり方について聞きました。

日本のために日本にないサービスをつくる

中川:起業のきっかけを教えてください。

守本:私は防衛大学の学生時代に理工学部で電気工学を専攻していて、自衛隊を辞めた後、外資系の半導体製造装置メーカーに入社しました。この頃、小原台クラブ(主に民間で活動する防衛大学校卒業生の同窓会)で、ある日本企業の経営者から、アメリカで訴訟を受けたときに証拠を開示する仕組みがなくて苦労したという話を聞きました。わざわざデータをアメリカに持って行って解析しなければならなかったというのです。これはグローバル展開する日本企業にとって不利になりますし、情報保護の観点でも良くありません。ここで、自分が何か役に立てることはないかと思い、一念発起してメーカーを退職し、起業しました。

中川:日本のために日本にないサービスをつくる。守本さんの思いに非常に共感します。私も、この国のために、社会を変えていくインフラを作りたいと考えています。防衛大学卒らしい考え方かもしれませんね。

守本:そうですね。防衛大学や自衛隊にいたから、このような発想に至ったのだと思います。

懐中電灯やビーズバッグを売ってしのぐ

守本:勢いで起業したものの、すぐに個人の力の限界を痛感しました。

私たちの事業は「デジタル・フォレンジック調査」と言って、デジタル機器の記録を調査・分析・保全し、法的な証拠として利用できるようにすることをメインとしています。要は、サイバー攻撃や内部犯行の証拠を抽出するのです。当時の日本にはない事業で、企業に営業に行くと、「社員を疑って調査するなんてあり得ない」と言われてしまいました。警察なら捜査に使ってくれるのではと、ツテをたどって紹介させてもらったものの導入には至りませんでした。とにかく相手にされなかったのです。

ですから、起業1年目は、手回し懐中電灯を売ったり、父が売っていたビーズバッグの在庫処分品を売ったりしていました。

中川:今では考えられないですね。そこから一気に急成長したきっかけは何だったのでしょうか。

守本:小原台クラブの先輩の紹介で、フォーカスシステムズの創業者の方に支援いただくことになりました。それが転機となりました。まずはデジタル・フォレンジックとは何かを知ってもらうことから始めようと、セキュリティ関連の学者や弁護士に会いに行き、デジタル・フォレンジック研究会を立ち上げたのです。このあたりから、省庁も含め、デジタル・フォレンジックの必要性を理解してもらえるようになりました。

中川:相手にしてもらえないところから、信念を貫き、どんどん人を巻き込んでいく。どうしたらそんなことができるのでしょうか。

守本:背水の陣だったからでしょうかね。私はもともと人見知りで、社員の前で話すのすら緊張して手が震えてしまうくらいです。でも、崖っぷちに立たされて、もうやるしかなかった。

「絶対に成功する」という確信もありました。なぜそう信じられるのかと聞かれるとうまく言えないのですが、やり抜く覚悟ですかね。そんな気持ちで20年間しつこいぐらいに続けてきました。

社長がやるべきことから逃げない

中川:守本さんの起業家としてのモットーを教えてください。

守本:人に頼ってはいけない。当然、会社を運営する上で必要なところは人に頼るべきだと思いますが、社長がやるべきことから逃げてはいけないと思います。それから、初心を忘れない。私の初心は「絶対にやり抜くこと」です。初心を持ち続けることは本当に大切です。初心を忘れてしまうと、自分が自分でなくなるというか、存在が消えてしまうような気がします。

中川:守本さんのその原動力って何なのでしょうか。

守本:ビジネスゴールを目指し、登っているときって、とにかく苦しいですよね。雲がかかったような状態で、この先に本当に頂上があるのかも分からない。私が会社をつくったとき、この会社がうまくいくとは誰も想像もしていなかったと思います。でも、一度突き抜けた経験のある人は、突き抜けていない状態をどうやって過ごしたらいいのかが分かるのです。私は、防衛大学や自衛隊で、先が見えない苦しみを何度も乗り越えてきました。大概の人は、ものすごく論理的な理由をつけて途中でやめてしまいます。でも、私にとっては、いかなる状況でも積み重ねることこそが成功体験になりました。

AIとどう向き合うか

守本:どんな時代になっても、約束を守るとか、時間を守るとか、最後までやり抜くといった、ビジネスの基本は変わりません。いくらAIが優秀になってきたと言っても、私は現時点でAIが人間を超えることは絶対にないと思っています。AIをつくったのも人間だし、AIをコントロールするのも人間です。

例えば、ChatGPT。ChatGPTは知られている情報を回答してくれます。しかし、プロフェッショナルに必要なのは、自分が知らない情報をも導き出すことだと思います。プロフェッショナルにとってAIは、自分の成長を加速するための道具です。

中川:プロフェッショナルに必要なマインドは何だと思いますか。

守本:実行力が全てと言ってもいいと思います。頭で考えているだけでは前に進めません。早く行動に移すことです。行動する前には必ず仮説を立てる。仮説を立てておかないと、結果が良かったのか悪かったのか判断できません。私はやった結果をすぐレビューします。一週間後ではなく、やった瞬間に細かく見ながら、当初思い描いていた仮説から差が開いてしまう前に兆候を捉えたいと思っています。

中川:守本さんは、どうやって仮説を立てているのですか?

守本:頭の中で、いろいろなアイデアを絵にします。さらに、一度全体を俯瞰して、それぞれの関係性を見る。そうやって、人が気づかない、あるいは自分が気づくべきことを何とか見つけ出そうとしています。

プロフェッショナルギルドへの期待

中川:私たちBallistaは、「プロフェッショナルギルド」といって、企業や社会の課題に対して、さまざまなプロフェッショナルの力で解決する仕組みを構築していこうとしています。

守本:私たちも、プロフェッショナルギルドの力を借りたいと思っています。私たちは、自社のコア事業を成長させるために全力投球してきました。しかし今後は、お客さまの悩みの一部ではなく、あらゆる提案ができる、あるいは、お客さまをリードできるような力が必要だと思います。

中川:私たちBallistaのコアメンバーは、長く経営戦略や事業戦略に従事してきました。FRONTEOと良い補完関係を結べると思っています。

守本:いいですね。近年、大企業と私たちのようなベンチャー企業のコラボレーションが注目されています。しかし、あまりうまく進んでいないのが実情です。なぜなら、仕事の進め方もスピード感もまったく違うんです。大企業にいて能力が高く、本当にその領域で活躍したいと思っている方は、積極的に外に出るべきだと思っています。一人のプロフェッショナルとしてベンチャー企業と関わっていくほうが、自分の能力を遺憾なく発揮できると思います。

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