エクサウィザーズ大植氏に聞く、日本のAI活用に足りない視点、プロフェッショナルに必要なメンタリティ
column
- コラム
エクサウィザーズは、2016年の設立以来、日本のAI業界を牽引する存在です。日本企業のAI活用には、どのような課題があるのでしょうか。同社の取締役として年間数百件に及ぶAI導入、DXに取り組んできた大植択真さんに、Ballista 中川貴登が聞きました。
年間300に及ぶプロジェクトの知見を生かす
大植択真さん(以下、大植):エクサウィザーズは、年間300に及ぶAIを用いた個社の課題解決で得られた知見をもとに、汎用的なAIサービスを開発し、世の中に広く提供しています。
特徴的なのは、エンジニアやデータサイエンティストと同じくらい、BizDev(事業開発)人材を擁していることです。実際に社会課題を解決するには、世の中の課題を正しく理解し、社会と技術をつないでいく役割が必要です。私たちの場合はその役割をBizDevが担います。彼らがフロントに立ち、世の中に価値提供、サービス開発していくところを強みとしています。
事業の柱は大きく2つ。AIプラットフォーム事業とAIプロダクト事業です。AIプラットフォーム事業では、AIプラットフォーム「exaBase」を通じて、AIを使った経営課題の解決を一気通貫でサポートしています。
もう一方のAIプロダクト事業では、さまざまな案件を進める中で抽出した共通課題を分析し、それらを解決するSaaSやアプリケーションをAIサービスとして開発・提供しています。
中川貴登(以下、中川):私もエクサウィザーズで一緒に仕事をし、多くのことを学びました。企業のDXを伴走支援したり、数週間でDX成長戦略を作ったりと、エクサウィザーズの仕事の面白さとダイナミズムを感じました。エクサウィザーズはすでに日本のAIのトップファームだと認識しています。
大植:ありがとうございます。直近では生成AIのニーズの高まりも受けて、更なるお客さまからの期待も感じています。
日本企業のAI活用に足りないのは「AIのぐるぐるモデル」
中川:多くの案件を進める中で、日本企業のAI活用には、どのような課題があると感じていますか?
大植:一番の課題は、「ユーザーを集めて、データを集め、AIを強化してサービス体験を向上して、更にまたデータを集める」という正のスパイラルを作れていない、あるいは考えられていないことにあると思います。
私はよく「AIのぐるぐるモデル」と表現をしているのですが、データが蓄積されればされるほどAIが賢くなって、サービスの品質が上がり、ユーザーが増える。そのユーザーがまたサービスを使うことで、データが増えてAIがさらに賢くなる。AIを本質的に使えている企業は、このスパイラルをうまく作り出しています。分かりやすい例を挙げると、OpenAIのChatGPTは、この「AIのぐるぐるモデル」の代表格だと言えます。
©︎エクサウィザーズ
しかし、今のところ、このようなAIの使い方をしている日本企業はほぼありません。過去のデータを取り込んで業務プロセスを効率化するなど、「業務改善」の域を出ない企業が多いのが実情です。
それから、コンサルタントやシステムインテグレーターに外注し、システムを作って利用されずに終わりになっている企業も見られます。私たちは、DX人材育成サービスや、AI開発環境「exaBase Studio」を通じ、AIの内製化を実現するサービス提供も行っています。
「創業メンタリティ」が成長の源泉
中川:内製化はまさにポイントだと思っています。日本企業が変わり、内製化が進むことで、コンサルタントやSIerといったITのプロフェッショナルも、これまでとは違った能力や手腕(ケイパビリティ)が求められるようになってくると思います。
大植:私もそう思います。私は「創業メンタリティ」という言葉がすごく好きなんです。創業時の組織には、創業者と現場、商品・サービス、そして、それを信じてくれる顧客しかいません。そこから事業が成長すると中間管理職がどんどん増えていき、顧客や自社のサービスから遠い存在になる人材が増えていきます。しかし、どんなに企業が大きくなろうとも、事業を大きくできるのは目の前の顧客と自社のサービスを大切にしている人材です。
ですから、創業したときのメンタリティを持って仕事をすることが大事だと思います。「お客さまのためにこうしたい」という意志を持って起業家のように動ける力が、ベースのマインドセットになってくると思います。
中川:おっしゃる通りです。「創業メンタリティ」を持つには、自分の価値定義を変える必要があります。現状では、「自分の役割はこれ」だから「ここだけやる」と自ら決め込んでしまう人が多いと思うんです。まずは、自分ごと化して動くこと。それがキーワードだと思います。
現場と経営陣さえいれば企業が成り立つ時代へ
大植:AI/データ活用が浸透し、DXが進展すると、大企業にもこれまでにない大きな変化が訪れると考えています。
端的に言えば、DXが進むと、大企業の中間管理職は既存の役割の必要性が薄れ、再定義が求められると思っています。経営陣が現場のデータを手元で見られるようになれば、中間管理職が数字をまとめたり、報告したりする必要がなくなります。つまり、現場とデータと経営陣さえいれば質が高く素早い意思決定ができる時代になっていくのです。
中川:中間管理職はどうなってしまうのでしょうか?
大植:意志を持って経営する側に行くか、現場に行くかの二択です。単に中間管理職という役職がなくなるだけで、中間管理職に就いていた人は、さらに価値を生み出す役割に従事できるようになるわけです。
中川:そういう世界はいつ訪れると思いますか?
大植:段階的に変化していくものだと思いますが、現場で行われていることが全てデータ化できるタイミングでそのような世界が訪れるのではないでしょうか。特に人事や経営に関する業務のデータ化ができれば、中間管理職はどんどん減り、大企業がスタートアップ企業化していく(=創業メンタリティを取り戻す)のではないかと予想しています。
中川:同感です。まさに「創業メンタリティ」が必要な時代になっていくと思います。
意志ある人の周りに、人は集まる
中川:私たちBallistaが実現しようとしているDAO(分散型自律組織)では、個人のやりたいことに対して人が集まり、既存の雇用関係に縛られない新たな関係性によって、価値を創出していくことを構想しています。
意志ある人のところに人は集まります。報酬やガバナンスなど課題はありますが、Ballistaでそのような仕組みや世界観を実現できれば、社会が変わっていくと思います。
大植:実は、今の若者ってすでにそうなってきていますよね。インターンや新卒採用をしているとすごく実感するのですが、今の学生って、自分が社会課題とどう向き合い、どう解決していくかを強く意識している人が多いです。
こういうのはどうでしょうか? 成し遂げたいことはある。でもまだスキルが追いついていない若者をコミュニティ化し、Ballistaで経験させる。その経験を活かして新しい組織を作り、「創業メンタリティ」を持って新しい価値を生み出せる人材を輩出していく。Ballistaがそんな位置づけになったら面白くなると思います。
中川:意志を持った若者に憧れられるような会社にしたいですね。強烈な危機感と、強烈な憧れ。この2つを持ち続けられる会社にしたいです。私たちは、「人や組織の可能性を”覚醒させる存在”であり続ける」をモットーにしていますが、挑戦や希望に満ち溢れた人を増やしたいと思っているんです。
大植:大切なことだと思います。意志を持ってチャレンジできる人材をどんどん生み出せば、日本をもっと元気にできるはずです。