新規事業を成功に導くためのチーム構築戦略~スタートアップ型文化とアジャイル開発で生み出すスピードと柔軟性~

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2025.06.06
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新規事業を立ち上げる際、企業が抱える最大の課題のひとつは「既存の組織・カルチャーのままで本当に新規事業を加速できるのか?」という点です。新しいアイデアをビジネスとして具現化し、市場で勝ち抜くためには、スピード感と柔軟性が欠かせません。しかし、多くの企業が既存部門やプロセスに縛られ、思うように新規事業の開発を進められないというジレンマを抱えています。

 

特に大手企業においては、既存の組織体制がしっかりしている反面、イノベーションやリスクを許容するカルチャーが十分に醸成されていないケースがあります。その結果、「新規事業を発案しても、社内調整に時間がかかりすぎる」「少しでもリスクがあると先送りにしてしまう」「スピード感ある検証ができず、市場の変化に追いつけない」などの問題が起きがちです。

そこで本記事では、新規事業において成功確率を高めるチーム組成をテーマに、以下のポイントを解説します。

 

・新規事業におけるチーム組成の重要性

・新規事業を推進するうえで揃えるべき人材と役割

・スタートアップ型チーム文化を醸成する方法

・アジャイル開発とユーザーフィードバックを活用したアプローチ

・コンサルティング活用によるチーム立ち上げ支援のメリット

 

本記事を通じて、新規事業のチーム設計を最適化し、ビジネスの成長エンジンとなるように進めるための参考にしていただければ幸いです。

新規事業におけるチーム組成の重要性

既存組織の延長では立ち上がらない理由

新規事業が既存の組織体制やカルチャーの延長線上にある場合、多くはイノベーションが生まれにくい結果に終わります。その理由としては、次のようなものが挙げられます。

リスク許容度の低さ

既存事業で安定した売上を追求してきた組織ほど、リスクに対して慎重になりがちです。新しいアイデアをすぐに試せず、事前に慎重すぎる計画や根回しを行うため、スピード感を損ねてしまいます。

評価制度・KPIの不一致

既存事業の評価制度に基づくと、短期的な成果や安定した利益を重視しがちです。しかし、新規事業は当初から利益を生み出すわけではなく、一定期間の投資や試行錯誤が必要です。既存のKPIでは、新規事業特有の成果を正当に評価できません。

組織内での競合・コンフリクト

既存事業の組織とリソースを取り合う形になると、「新規事業には予算を割きたくない」「人材を渡したくない」といった内部対立が生じやすくなります。このコンフリクトが原因でプロジェクトが停滞するケースは珍しくありません。

 

こうした課題を克服するためには、新規事業チームを既存組織からある程度切り離し、自由度の高い環境を整える必要があります。それが新規事業におけるチーム組成の最重要ポイントです。

スピードと柔軟性を両立させるための独立チーム設計

新規事業を軌道に乗せるためには、「スピード感」と「柔軟性」が欠かせません。この2つを両立するためには、独立性の高いチーム設計が有効です。ここでは、独立チームの設計にあたり押さえておきたいポイントを挙げます。

経営陣からの直接的なコミットメント

新規事業チームのリーダーやメンバーが意思決定の時間を短縮するためには、経営層からの権限移譲が不可欠です。意思決定が早いほど、失敗してもすぐに修正できるし、成功した場合はさらに大きく展開できます。

事業責任を明確化した小規模組織

大企業ほど組織が複雑になり、責任の所在が不明確になりやすいです。新規事業チームでは、事業責任を担うメンバーや役割を明確にしておくことで、素早い判断と行動を促進できます。

柔軟な予算管理とリソース配分

予算やリソースがカチッと固定化されると、予想外のチャンスや市場の変化に対応しづらくなります。新規事業チームには必要最小限のベース予算を与え、必要に応じて追加投資を判断できる仕組みを用意することが重要です。

独立チームを結成することで、従来の硬直化した組織ルールから解放され、新規事業に必要なスピードと柔軟性を発揮できるようになります。

成功に向けて揃えるべき人材と役割

事業開発担当:事業を創造し、チーム活動をドライブする

新規事業において最も重要なのは、誰のどんな課題を解決するのかを明確にし、それに基づいてビジネスモデルを設計することです。事業開発担当は、以下のような役割を担います。

顧客ニーズや市場の調査・分析

顧客や市場の動向を的確に捉え、新規事業におけるビジネスチャンスを見極める。

バリュープロポジションの策定

顧客に対して提供できる価値を明確化し、差別化ポイントを定義する。

課題仮説の設定と検証

「顧客が抱える潜在的な課題は何か?」「仮説は正しいか?」などを検証しながら事業アイデアをブラッシュアップする。

事業開発担当は、顧客の声を聞きながら柔軟に仮説を修正し、プロダクトやサービスの方向性を確立していくドライバー役です。マーケティングやプロダクト開発との橋渡しも担い、チーム全体をビジネスゴールへ導きます。

市場開拓担当:販路開拓・パートナー開拓等の事業拡大計画策定

新規事業を成功させるためには、市場へのアクセスや販路拡大計画が欠かせません。ここでは、市場開拓担当が担う役割を整理します。

顧客獲得チャネルの設計

新しいサービスをどのように訴求し、認知度を高めていくかを検討・実行する。オンライン・オフライン双方のチャネルやSNSなどのマーケティング手法を組み合わせて、有効な顧客接点を作り出す。

パートナーとの協業

パートナー企業とのアライアンスや提携先の発掘、交渉、契約調整などを行い、新規事業の成長スピードを加速させる。

スケールアップ戦略

小規模でテスト運用を開始した事業を、どのように本格展開していくのかを計画する。地域拡大、グローバル展開、追加サービスの開発など、事業成長に不可欠な要素を描き出す。

市場開拓担当は営業やマーケティングの知見だけでなく、パートナーシップの構築能力や交渉力も求められます。特に新規事業では、既存事業では結びつかなかった企業とのコラボレーションが起爆剤になることも多いため、外部と積極的に連携できる人材が必要です。

テクノロジー担当:プロダクト開発・運用・保守

IT技術がビジネスの成否を大きく左右する現代において、新規事業でもテクノロジーの活用は必須です。テクノロジー担当は、以下のような責任を持ちます。

プロダクト開発・運用

サービスやプロダクトの開発をリードし、スムーズなリリースを支える。開発手法としてアジャイルやスクラムなどを導入し、機能の追加や修正を迅速に行うことが重要。

技術的な課題解決

新規事業で想定外の技術課題が生じることは珍しくありません。スピーディかつ柔軟に問題を解決できる能力が求められます。

データ分析とフィードバックループの構築

ユーザーや市場から得られるデータを分析し、プロダクト改善や新機能開発に活かす。アナリティクスやBIツールを活用し、仮説検証サイクルを効率化する。

テクノロジー担当の存在は、新規事業の実装速度や品質に直結します。特にプロトタイプやMVPMinimum Viable Product)の段階でこそ、アジャイルな開発体制を敷くことが成否を分けるポイントとなるでしょう。

その他、必要に応じた役割(ファイナンス、法務、デザインなど)

新規事業が成長していく過程では、事業開発・市場開拓・テクノロジー以外にも多様な専門性が求められます。たとえば、以下のような役割が挙げられます。

 

・ファイナンス担当:事業に必要な資金計画の立案、コスト管理、投資家への説明資料作成などを担う。大企業でも資金繰りに余裕があるわけではなく、常に予算の最適配分を意識する必要がある。

・法務担当:サービス利用規約や契約書作成、コンプライアンス対応など、新規事業のリスクを最小限に抑える業務を行う。データプライバシーや規制が厳しい分野では特に重要。

デザイン担当UI/UXデザインはもちろん、ブランディングやクリエイティブ面での差別化を追求する。新規事業の魅力を視覚やユーザー体験を通じて伝える役割は、認知度向上に直結する。

 

これらの専門性を必要に応じて外部パートナーに委託する場合も多々あります。重要なのは、チームに必要なスキルセットを的確に判断し、最適なリソースを確保することです。

スタートアップ型チーム文化を醸成するには

失敗許容・学習重視のカルチャー構築

スタートアップ型チームの最大の特徴は、「失敗を許容する」カルチャーです。イノベーションのためには、どうしても試行錯誤やリスクが必要になります。

失敗事例を積極的に共有

チーム内で失敗事例をオープンに共有することで、同じミスを繰り返さないだけでなく、新たな学びを得られます。「失敗はタブー」ではなく、「失敗は重要なフィードバック」と捉える姿勢が大切です。

心理的安全性の確保

メンバーが自由に意見を言い合え、リスクのある提案でも排除されない環境が不可欠です。心理的安全性が低いと、挑戦や創造性が阻害され、新規事業の成果にも悪影響を及ぼします。

ミッションドリブンなチーム目標の設計

スタートアップ型文化を醸成するもう一つの要素は、「ミッションやビジョンを軸に行動できる組織設計」です。

ミッション・ビジョンを明確化する

新規事業が解決しようとしている課題や、社会的意義を全メンバーで共有します。これによって、短期的な成果が出なくても、長期視点で取り組むモチベーションが維持しやすくなります。

OKRなどの目標管理手法

従来のKPI管理だけでなく、OKRObjectives and Key Results)を導入することで、チャレンジングな目標と実行フェーズの測定をバランスよく進められます。ミッションに紐づけた目標設定を行うことで、個々の行動が戦略的に結びつきます。

役割と裁量を明確にする運営ルール

スタートアップ型チームでは、メンバー一人ひとりの裁量を大きくし、スピード感のある意思決定を促すことが求められます。ただし、単なる放任主義ではチームが混乱する可能性があるため、一定の運営ルールを定めることが重要です。

意思決定プロセスの透明化

誰がどのレベルの意思決定を行うのか、プロセスを明示します。全員が意思決定フローを理解していれば、承認待ちなどの無駄な遅延を防げます。

各メンバーの役割定義

事業開発、テクノロジー、デザインなど、領域ごとにどのような権限と責任があるのかを明確化します。役割が曖昧だと、責任の所在が不明になりがちで、業務が滞る可能性があります。

アジャイル開発とユーザーフィードバックを軸に進める

「完璧な計画」より「素早いテスト」

新規事業においては、長期的な完璧な計画を作るよりも、小さなテストを素早く回しながら市場やユーザーの反応を探るアジャイルなアプローチが有効です。

MVPの早期リリース

最小限の機能を持つプロトタイプ(MVP)を市場に投入し、実際のユーザーからリアルなフィードバックを得る。それを基に次の開発スプリントに反映することで、最短ルートで事業の方向性を固められます。

リーンスタートアップの手法

Eric Riesの「リーン・スタートアップ」が提唱する“Build-Measure-Learn”サイクルを実践します。作ってみて測定し、その結果を学習して次の施策に反映するというプロセスは、新規事業でも極めて有効です。

仮説検証サイクルを回し続けるチーム運営

アジャイル開発では、「仮説を立てる検証する学習する仮説を修正する」というサイクルをいかに早く回し続けられるかがポイントです。

短いスプリントでの開発運営

12週間など短い期間での開発・リリースを繰り返し、常に改善サイクルを回す。これにより、大きな方向転換が必要になった場合でも修正コストを最小限に抑えられます。

定期的なレトロスペクティブ(振り返り)

スプリントの終了時に、チーム内で成果と課題を振り返り、次のスプリントに活かす。チームメンバー全員がアジャイル思考を共有し、継続的に学習することが重要です。

ユーザーの声を即座に反映する仕組み作り

新規事業においてユーザーフィードバックは不可欠です。ユーザーの声を即座に反映する仕組みを整えておくと、サービスの品質向上と顧客満足度の向上に直結します。

フィードバックチャネルの多様化

ユーザーからの問い合わせフォーム、SNS、レビューサイトなど、多様なチャネルを用意して、ユーザーが声を上げやすい環境を整えます。

フィードバックの迅速な分析と対応

ツールやダッシュボードでリアルタイムにフィードバックを集約し、優先度をつけながら対応する。開発チームとサポートチームが連携し、プロダクト改善の速度を加速させます。

コンサルティング活用によるチーム立ち上げ支援

初期フェーズのスピードアップ支援

コンサルファームや外部コンサルを活用することで、新規事業チームの立ち上げをスピードアップできます。特に初期フェーズでは、ノウハウ不足やリソース不足に陥りやすいため、以下のような支援が効果的です。

市場調査・競合分析

コンサルティングファームのデータベースや分析手法を活用すれば、短期間で正確な市場情報を入手可能です。戦略立案の初期段階で質の高いデータを使えば、仮説設定の精度も高まります。

ビジネスモデル構築のサポート

過去の事例や業界知見を活かし、適切なビジネスモデルを提示しながらクライアント企業や社内新規事業チームをリードします。抜け漏れやリスクを事前に洗い出し、対策を講じることも可能です。

プロジェクトマネジメント

コンサルタントは、チーム全体が同じ方向を向いてプロジェクトを進められるよう、タスク管理や進捗管理を統制する役割も果たします。初期段階で整流化しておくことで、無駄な時間を削減できます。

外部知見による立ち上げ支援のメリット

新規事業を内製で進める場合、どうしても社内の常識や慣習にとらわれがちです。そこで外部のコンサルティングファームが入るメリットを挙げてみましょう。

客観的視点の導入

社内では気づかない思い込みやバイアスを指摘し、課題を客観的に捉える視点を提供します。

最新のベストプラクティスの活用

コンサルファームは複数企業の事例を持ち合わせているため、他社の成功・失敗事例から学びを得て迅速に自社の新規事業に反映できます。

リソース拡充と専門性補完

ファイナンスやテクノロジー、法務など、自社になかった専門性を補完し、チームの総合力を底上げできます。必要に応じて専門家をアサインし、プロジェクト全体のクオリティを高められます。

新規事業を成功させるためには、スピード感を持って仮説検証を繰り返すことが鍵となります。コンサルファームの支援を活用することで、初期段階の目利きやプロジェクト運営の円滑化に大きく貢献できるのです。

おわりに

新規事業を成功に導くための最大のポイントは、やはり「組織・チームの在り方」と「アジャイルなプロセス設計」にあります。既存事業の評価制度や組織構造の延長線上で新規事業を考えてしまうと、スピード感ある検証やリスクテイクが難しくなります。そのため、本記事で紹介した以下の点が重要になります。

 

①独立チームの設計と必要人材の最適配置

事業開発、テクノロジー、マーケティングなど、多様なスキルを持つメンバーをコンパクトに編成し、意思決定を迅速化する。

②スタートアップ型チーム文化の醸成

失敗を学びとして捉えるカルチャーや、ミッションドリブンな目標設定、役割分担と裁量を明確にする運営ルールが不可欠。

③アジャイル開発とユーザーフィードバックの活用

「完璧な計画」に固執するのではなく、小さな仮説検証と学習を繰り返しながら、事業アイデアを実証していく。

④コンサルファームの活用による初動のスピードアップ

外部の専門知見や客観的視点を取り入れることで、より早く正確に市場の可能性を見極め、成功確率を高められる。

 

特に、コンサルティングファーム自身が新規事業を立ち上げるケースでは、自社の豊富なナレッジやネットワークを最大限に活用しつつ、旧来の硬直化した評価制度や組織体制を一新する良い機会となります。コンサルタント個々の専門性やフレームワーク思考を取り入れつつ、スタートアップ型文化を形成することで、クライアントへの提案の幅も広がるでしょう。

 

新規事業を立ち上げるという試みは、多くのリソースと時間を要する挑戦です。しかし、適切なチーム組成と運営体制を敷けば、そのリスクは大きく軽減できます。逆に中途半端に既存組織へ組み込んでしまうと、イノベーションの芽を摘んでしまいかねません。ぜひ本記事で紹介したポイントを活かし、強力な新規事業チームを編成して、スピード感のある事業開発を実現してください。企業の持つ潜在的なイノベーション力を解放し、新たな市場を切り拓く力を得られるはずです。

 

以上が、新規事業チームを成功に導くための戦略とポイントです。コンサルティングを活用しながらスタートアップ型文化を取り入れることで、大企業やコンサルファームでもスピーディかつ柔軟性のある新規事業が生み出される可能性が高まります。ぜひチャレンジ精神をもって新しいイノベーションを生み出し、ビジネスの新たな成長エンジンを作り上げてください。

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